マーボー丼
- 作者: 宮部みゆき
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2010/02/10
- メディア: 文庫
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『模倣犯』のというより、前畑滋子の後日談ということになるのだろう。
『模倣犯』に彼女はいた。大将の首をとった功績はあるものの、彼女は物語の主体ではなかった。『模倣犯』という物語は、栗橋浩美と高井和明の物語だったように思える。第三部は蛇足のようなものだったのではないか、ピースはそこにいたけれど、それは、栗橋浩美の中にであって、あえて綱川浩一として実在する必要はなかったのかもしれない。死んで終わりましたでは済まされない、蛇足は必要不可欠なものだったんだろう。そもそもその物語は、そういうことがあったということを表したいのか、そこになにかを見出したいのか、見出したいなにかはちりばめられている。高井和明と由美子の分断は、綱川によるものだけれど、それを綱川自身がどれほど意識していたか、わからない。誰も知らない、知らないかもしれない事実が文面につづられていく、
少しわかった気がする。わたしの中で引っ掛かっていたこと。彼らの死によって、栗橋浩美と高井和明の人生が誰にも、お互い知り合うことでしかなく、この世からなくなってしまったということだった。前畑滋子はそこにたどり着けなかった。目の前にいた、高井由美子は死んでしまった。彼女の死はこの物語で、最も残酷かもしれない。彼女の死によって、被害者としてではなく加害者の家族として、その家族は葬られてしまう。葬られるものが、そのまま、葬るもののいけにえになってしまう現実を目の当たりにする。ことになる。
あれから九年後と語られる『楽園』、この物語では、中心に彼女がいる。というより、その役割を背負わされている、ように思う。
考えるとは何なのか、
思考の中にあったものが、実在したとわかったとたんに、空々しいもののように見えてしまう。現実は太陽の光にさらされ色褪せていく。