青空が落ちてくる。

are you thinking? われらはシンクタンク『世界征服倶楽部』

 エレベーターの扉はボタンを押しても開かない。

「ここで待っていればよかったんだ」
面を上げたユーシーの左手は、握って開いてを繰り返している。
「誰を、なにを待っていたの?」
ミハナはユーシーの横顔を見つめている。
「なにかが来る、いつか。そしてなにが起こるのかは解らない。そういうことになっていたんだ」
ユーシーは宙を見つめている。
ミハナはユーシーの横顔を見つめている。


「待っていてもなにも起こらない。待っていることが目的なら、誰も来ないし、なにも起こらない。その時は来ない。違う?」
ユーシーが振り向くと、ミハナは唇を噛みしめた。思わず声になったが、なにを言ったのか解らない訳じゃない。彼を攻めている自分は、彼じゃない、自分を責めている。それに気づくと辛かった。
「解ってるさ。でも、そう言われるときついな」
ユーシーは右手の平を太陽に向けた。そして顔を、視線を逸らせた。
「でも、わたしが来てしまった。この世界の、あなたのバランスは崩れてしまった。そうなんでしょう?
悪いけど、ユーシーには生き残ってもらうわ。わたしは、まだ生きたい」
「自分で自分を殺したんだろ」
「そう。反省してる」
「どんな感じだった?」
「自虐的。どうかしてたんだ、たぶん」
金属片が身体、肉に食い込んでいく冷たい感触が脳裏に浮かぶ。冷たい金属は血の赤に染まりその熱を失っていく。同化していくそれは、わたしからわたしのなにかを切り離すことを拒み始める。足下にできた赤く丸い、跪き蹲る。そして失うことを拒むのだ。
「チェスがね、チェスっていうの、わたしをこっちに連れ戻した」
ミハナが戸惑う様をユーシーは、悪くないと思いながら眺めていた。
「うまくいってるんだな」
「そうなのね。しょっちゅうけんかしてるけど」
「それならそれでいい。無理にことを起こすことはないからな」
ユーシーは見つめていたミハナの横顔から視線を反らす。
「ごめん。ビューが変わっちゃてるみたいだけど、チェスにはジェニーって呼ばれてた」
その先はないね、その後の記憶を辿りながら、目蓋が重い。


「君がここにいられる時間は限られている」
「どういうこと?」
「今はそれまでに、君をそこまで送り届けるのがおれの役目なのかもしれない。死ぬのは恐くない。この世から消滅するだけ。それを望んでいたんじゃなかったのか?
死ぬのも大変だな」
「ほっといて。どうせ見捨てるんでしょ」