青空が落ちてくる。

are you thinking? われらはシンクタンク『世界征服倶楽部』

 止まった時計は壊れてない。

どうしてチェスがわたしを選んだのか。そのことについて考えることは、たぶん意味がない。
チェスは再生できる意志を捜していて、偶々見つけたのがわたしだったというだけだ。
目覚める前の記憶はない。チェスはそれを残さなかった。彼にとって、それは余計なものだったのだろう。知識はあるが記憶はない。意識のあるロボットはこういう感じなのかもしれない。
わたしという存在はたぶん、そういうものだ。


死んだ理由はあったのかも知れないけれど、今それを辿るのは意味はないだろう。自分が何者だったか、知りたい欲求がないのだから。訊いてみたことはあるが、チェスは、知らないって。知っていたとしたら教えるだろうか、知ろうとさえしなかったのでは、そんな気がする。知ってしまえば、それは秘め事になる。必要のないことを知る必要はない。チェスにとってわたしは、確かな、不安定ではないなにかで、囲われる女か、ペットのような存在なのかもしれない。
鎖で繋がれているわけではないけれど、わたしの意志は彼の意識に繋がっている。それが途切れるのはチェスの命取りだという。たぶん、わたしもそうなのだろう。チェスとわたしはこの世界に存在することにおいて、表裏で一心同体なのだ。


「ユーシー、戻れなくてもいい。でも、ユーシーがなにを考えているのか、知りたい」
エスカレーターが行き来している。微かな音が聞こえるのだ。
今あなたが死ねばわたしも終わりなの。だから、ちょっと待ってもらえないかな。
時計を止めることはできないのでしょう?