青空が落ちてくる。

are you thinking? われらはシンクタンク『世界征服倶楽部』

 3.バザール

見知らぬ部屋のベッドでミハナは目覚める。
そこでは彼女の秘書のような、毛糸の固まりのような小動物、チェスがすべてを仕切っている。
それでもチェスは、彼女の目を使って外の世界を見ていた。ふだんチェスは世界を感じているが見てはいない。ときどき垣間見る景色は、ミハナの見ている景色だけだった。


ミハナにはここでの生活がいつから続いているのか解らない。その時も、チェスはおそらくいつものように彼女の食事を運んできた。窓の外は暗い。
雨?
暗いというと、チェスがモニタをオンにする。モニタは窓そのもので、雨を受けるアマゾンのジャングルが映っていた。


チェスが出かける時間だと言って、ドレスを持ってくる。冗談じゃないと言ってTシャツとジーンズがなく、ヒラヒラを身にまとい出ていく。


出かけた先は、ミハナとチェスの前で、重々しい扉が左右に開く。カジノだった。
チェスに勧められるままルーレットで賭けてみる。
当たったり、負けたり、結果はとんとん、ちょっと勝ったくらい。ハンバーガーでも食べるか。
昨日のやつは大負けだったって、呟いたチェスの独り言がちょっと引っかかる。
それはたぶんわたしだけじゃない。


ここでなにが起こっているのか、わたしという存在がどういう意味を持っているか、確認する必要がある。
奥歯を食いしばり上目遣いに鏡を見つめる。
いい顔してる。


カジノを出るとリムジンが待っている。
立ち止まるミハナ。
が、明るくにぎやかな、道の入り口が気になって、チェスを振り切って向かう。カジノの裏に広がっているバザールだった。
時折目がつく交換ボディーがミハナの目を惹く。なんか見た目は人身売買みたいだ。
でも心はついてこない。君が彼になるんだ。そういうことを試してみれるってことだ。


ミハナはその中で、あるボディーに目を奪われる。
チェスにどういうことか聞いても要領を得ないが、反対するので、購入して連れて帰る。
自分の部屋に戻ると、自分のベッドに寝かせておくようにチェスに命じて、ミハナはバスに入る。熱いシャワーを浴びたかった。
バスから出たミハナは、
チェスの反対を無視して、持ち帰ったボディーにダイレクトにアクセスする。記憶にダイブする。
記憶をトレースするミハナ。時々自分を見つける。
ユーシーだ。わたしはあなたが好きだった。
君がわたしを見ていたなんて、知らなかったな。
ノスタルジーだ。
記憶がさかのぼって駆けめぐる。彼の思い出を辿ろうとしている。なにを憶えているのかさえ想像がつかない。それなのに、
記憶にない彼がどんな人生を送ったのだろう。わたしは彼に話せるような人生を送ってきたのか、考えただけでいたたまれなく。不幸なのはわたしじゃない。二十年前のわたしだ、たぶん。
でも意識が見つからない。奇跡は起こらないの?
チェス、なんとかしなさい。眠っているのなら起こせばいい。