青空が落ちてくる。

are you thinking? われらはシンクタンク『世界征服倶楽部』

 気配

「走って!」
思わず出た右手のひらに、ユーシーの背中の厚さが伝わる。顔とか見るだけとは違う、布一枚を通して生きている肉体の温もりが伝わってくる。
ユーシーは走り出していた。もう誰に求めることはできない。感電した感覚は、それと出会った瞬間に見捨てられたようなものだった。
わたし達から動いたんじゃない。乗せられたんだ。
チェスは知っているのだろうか。
チェスがわたしを売るなんてあり得ないことだと思っていた。
どういうこと?
チェスがわたしに教えてくれた前提には、嘘があるということなのだろうか。
わたしが消えてもチェスは消えない。チェスが消えたら? それは解らない。確かなのは、わたしはここに意志を持って存在しているということだけだった。チェスとは争いたくない。


後ろからは、伸びる手が追ってきている。
微かに振り向くと、開いた手のひらが視界を覆う勢いで迫ってきている。



ユーシーがどこにいるのか、ミハナには解らない。
「どこ?」
「向こう」
チェスが答える。
ミハナの見つめる先には、白いエレベータの扉があった。
エレベータの扉が開く。
走る二人。


エレベータに飛び込むユーシーとミハナ。
閉じる扉。
エレベーターの扉は金属製だが内側はシースルーだった。外が見渡せる。足下は確かなのに、ちょっと宙に浮いているような気分になる。
意識とは別にエレベータは上昇を始める。重量に二人は床に押しつけられる感覚に、歯を食いしばった。
「上がれ」
ミハナの唇から声が漏れた。
ミハナは両手を組んでうずくまる。
彼を助けて。その想いは宙に浮いているようだった。