青空が落ちてくる。

are you thinking? われらはシンクタンク『世界征服倶楽部』

 思い出というには確かな記憶。

「はいこれ」
彼女は見覚えのある手帳を差し出した。
「ありがとう」
自分の手帳が戻ってきた。それが当然だと思い、それ以上は考えてはいかった。
それを彼女は卒業の日、この手から浚っていった。
「もらった」
手帳を手にした右手を掲げ離れていく彼女は小気味良さを感じさせる、さわやかな風だった。

夜自分の部屋で、久しぶりに自分の元に返ってきた手帳を開いた。パラパラとめくりながら自分が書いた寺があることを確かめる。
見慣れない手が目に留まった。
アドレス欄に彼女の住所と電話番号があった。

    *

彼は部活の先輩だった。
こんな兄貴がいたらっていうような存在は、いつからから憧れになっていた。

彼の手帳には住所も名前も、電話番号も書いてなかった。
それが知りたかったのに。それが知りたくて無茶なことをした。
手帳を見せて欲しいって、その気持ちは嘘じゃなかった。毎日使うことを前提とした手帳は、持ち主が見えるもの。それが欲しいと思ったのは、彼を欲しいという気持ちと変わらないものだったのかもしれない。
思わず背伸びをして手を伸ばしていた。
冗談めいた奇行。でも気持ちに嘘はなかったんだ。だから、後悔はしない。思い出すと恥ずかしいけど。
彼は怒っているだろうか。それが心配で、不安を呼び起こす。

返さなくちゃ。
そう思っても、なかなかうまくいかないものだ。
焦るとその気持ちに押しつぶされそうな、錯覚に襲われる。
お守りのように大切に鞄の隅に忍ばせながら、それを返す機会を探していた。

憧れは膨らんで、彼はどこまでも無邪気だった。想いは笑顔に捨てられるのか。
たぶん、そこには意志はない。ただ、現象があるだけだ。