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「チェス」
手をさしのべながら消え始めるミハナ。
「ミハナ、行くなッ」
ユーシーの手は空を掴む。彼の瞳にはまだ、彼女の姿が映っている。
彼女の声はどこに向かって消えたのだろう。
あなたは一人になりたっかっただけだ。わたしは、寂しかったんだ。たぶん。
ここでは触れることはできるのに、触れられることはできないんだ。
ミハナには、ジェニーの、通りを行く姿が見えた。相変わらずのブロンドの髪を靡かせながら。
えっ?
ミハナはチェスだと思った。チェスが近くにいる。
そう思って通りにかけだした彼女は迷子になった。
チェスがいなくてはミハナは現実に戻ることはできない。
この世界に閉じこめられたミハナは、やがてユーシーの意識に飲み込まれてしまう。それは、彼女が存在しなくなるということと等しかった。