青空が落ちてくる。

are you thinking? われらはシンクタンク『世界征服倶楽部』

青空が落ちてくる

 映画を見たのは午前中だった。

チャリオッツオブファイヤー、音楽がバンゲリスで、オリンピックが舞台のイギリスのランナーの話だった。ストーリーよりも、テーマ曲に乗って主人公達がトラックを駆け抜けていくシーンが印象的な映画だった。 映画館から外に出ると、晴れた日常に再び引き戻…

階段を駆けあがるミハナ。 登り切った踊り場で立ち止まると、目の前にエレベータの扉が開いている。 ユーシーの意志が呼んでいる。 ミハナには聞こえる。 こっちに来い。 エレベータに飛び込むと、扉が閉じて上昇を始める。来たときと同じだ。見上げる。 青…

床に、開いたノートが落ちている。 わたしがなにか言った? その一言が彼を傷つけたのかもしれない。 わたしはあなたの肌にナイフの刃を立てた。線ができて赤い血がにじむ様が広がっていく。 視界が赤く覆われる。 あなたはわたしを見ていた。見ながら、知っ…

 4.壁の内側

ミハナの意識が弾けた瞬間、 目が覚めたんだ。彼女は壁に囲まれた運動場のような空間の真ん中にいた。側にはユーシーが砂混じりの大地に横たわっている。 起きて。ミハナは願う。目蓋を閉じたユーシーの表情を見つめ、青空を仰いだ。 ユーシーは目を開く。ユ…

 3.バザール

見知らぬ部屋のベッドでミハナは目覚める。 そこでは彼女の秘書のような、毛糸の固まりのような小動物、チェスがすべてを仕切っている。 それでもチェスは、彼女の目を使って外の世界を見ていた。ふだんチェスは世界を感じているが見てはいない。ときどき垣…

 2.裏庭

雑草の生い茂る中で、ミハナは透明なチューブを行き来するエレベータを見上げた。 「なにこれ」 校舎の裏にエレベータがあるって。 それをユーシーに聞かされたミハナは怪訝に思いながら、その風景を思い出す。 裏庭には雑草が生い茂っている。そんなイメー…

 1.部屋

グラスに注がれるのを見ている。 透明で金色、スパークリングワインは目を凝らすと向こう側が見えるけど、液体を眺めているだけでも楽しめる。 内側についた炭酸の泡が数珠繋ぎになって上がってくる。止めどなく。 「チェス」 チェスは回ってみせる。 足下に…

 迷路の迷子

明確な確信のないまま旅に出てしまったことに気がついた。いまさらながら。 途方にくれたってやつだ。 外に出て、道を行き交う車の流れを見つめながら、ここがどこなのか、これからどこに向かえばいいのか解らない。 さっきまでは、ルーレットを駆ける玉が、…

ミハナの想いはユーシーに届いていなかった。 ミハナの日記は彼女の机の引き出しにしまわれている。彼女の書いた手紙はユーシーの元には届かなかった。 どうして? チェス「それをミハナが望まなかったからじゃないか」 ミハナの足下で戯れているように見え…

あなたはいつもここにいて、わたしはここにいないかもしれないという、曖昧な錯覚。 そんなことをフッと思うときがある。 そこにいるのは誰? そこにいるのは誰だ?

 骨

校舎の裏にエレベーターがあるんだ。 裏庭の向こうには川が流れている。対岸にはグラウンドが、野球場やサッカー場など広がっている。 校舎の上から透明なチューブ内を上り下りするボックスはエレベーターというか、タイムボックスのように見える。床がプレ…

 これまでのあらすじ?

エレベータで昇っていたミハナとユーシーは、その先でボディーが交換できる世界の住人として存在している。どうしてそうなったのかは解らない。夢なのかも知れない。ミハナの意識はチェスの下に、ユーシーのボディーはどこかでバザールの売り物として並んで…

 エレベータボックスの中は、

○エレベータに 足を踏み入れると、背中で扉が閉まる。 銀色の扉の向こうは空間だった。空色で、雲の上に立ったような感じだ。 二人が入って、扉が閉じると、 足下が掬われるように身体が昇っていく。 ミハナ「なにこれ?」 両手を広げる。青空を掴むように。…

 図書館

○ 読書室 ミハナが本を読んでいる。隣に座るユーシー。 ユーシーの存在に気付くミハナ。顔は向けない。お互い振り向かず、 ユーシー「妙な噂を耳にしたんで確かめに来たんだ」 ミハナ 「誘ってるの?」 ユーシー「まあね。興味ないか?」 ミハナ 「いつから…

 迷走?

どうしてだろう。 否定されているって気づいたのは、ずっと後になってから。 わたしは居ない方がいい? 誰も答えてくれなかった。 * 懐かしい思いが記憶を辿る。ここまでなのか、その先があるのか、その先に期待したいと思いながら、その先がないことを改め…

夏の日差しと戦うか、受け入れるか。 窓から差し込むあかりが連れてくる熱の重さを感じ始めると、空調の整備を急がないとと思いながら窓を開ける。わたしはあなたの扉を開ける努力をしていない。ただ待っている。わたしの話をしようか。でも、自分の話を改ま…

  深海魚の見る夢 4

ユーシー、わたしを創ったのは、ユーシーなの? 鼓動が聞こえる。 身体が揺れたんじゃないかな。全身が痙攣したような感じだった。 やめてッ。 蹲って全身を硬直させる。 どうして? 反応がない。揺れはそこそこ収まったみたいだけど、終わりな気分にはなれ…

 深海魚の見る夢 3

暗い海、太陽の光から離れていくように潜っていく鯨の姿が見える。 小さい水槽でいい。水族館に行かない? たくさん水が見たい。魚の泳ぐ水は生きている水でしょう。ボコボコと空気を含んで、煽っているようにも見えるけど、泳いでいる魚たちを見ていると気…

 深海魚の見る夢 2

わたし達が出会ったのはバザールと呼ばれる商業地区だった。わたしは客で彼は売り物だった。 わたしは今、彼の記憶装置の中にいる。彼の記憶を覗きながら、時々彼に話しかける。けどまだ彼の声を聞いていない。それでも彼が聞いていることは解る。時々イメー…

 深海魚の見る夢 1

深海魚がそこを這うように、ほとんど動いているようには見えない。目を離して再び戻すと頭の位置が変わっているような気がするが、確信は持てない。 間違い捜しのようなものだだし、知りたいわけでもない。 「最近昔のことを思い出すのだけれど、なんかいい…

 流れよりも断面

そよ風を浴びながら流れている川を外から見るよりも、その断面をモニタ越しに眺めていた方が和むことがある。フィルタを抜けて流れてくる空気は、マイナスイオンで満たされているのだろう。 なにもかも飲み込んだの? どうして? 時には他人に泣きついてもい…

たぶん、この世界は意図的に滅びようとしているんじゃないかな。

帰る場所はないの? じゃあ来た場所は? まっ、いいか。あんなところにいたんだから、流れ者なんでしょ。違うなら違うって言いなさいよ。じゃないとそう思っちゃうから。帰る場所はないのね、流れ者だから。いい? 今日からわたしが、あなたの帰る場所になる…

 ダイヴ

ミハナはユーシーにアクセスを試みる。 おれを見ていた。 気づいていたの? その気はなかったんだけどな。惹かれたのは、君か? まさか買うかと思わなかったけどな。 気になったの、だから。 もう一度通ったときになかったら気になるでしょう。 待っていた?…

 鬱金香

ジェニー、ああいうの、他人を弄ぶのいい加減にしたら? そのうち痛い目をみるから? うん。 みてみたいの。 * 鬱金香(チューリップ) 死ぬのは恐くない。恐いのはそれに伴う痛みだ。 ジェニーの肉体は存在しない。精神系の身体を渡り歩いている。痛みは感…

ジェニーは娼婦型、彼女はそのボディが気に入っているらしい。 その話、 男という存在をどう思っているかってことかな。わたしは男が好きなんだ。身体は選べるけど、 自虐的なのかも知れないけど、自己分析はしない。これでいいと思っているし、満足している…

二三歩後ろに下がって壁づたいに崩れ落ちる。 おぼつかない足下がずれて、 滅びればいい。あのときはそう思ってた。 今は? 解らないんだ。 どうして? それが解らない。教えてくれよ。 別の存在になろうとしても、所詮無理なんだよ。ユーシー、 どうして安…

どうして見つからないの? ここにあるはずなのに。 建物の構造を考えれば、そこに扉はあるはずだった。 どうして、 そこだと思った場所には白壁があるだけだった。 呆然として、膝が落ちる。 だったら手当たり次第に探すしかない。 振り向きながら立ち上がっ…

 ユーシーがミハナに問いかける。

「お前、利用されてたんだよ」 「そんなの知ってた」 「お前を辿って、やつはおれをハッキングしようとしていた。それが玉子の正体だよ」 「あなたはそれから、わたしを逃がそうとしていた」 「そのつもりだったけど、奴はお前を防壁に使ってたから、ターミ…

 チェスを返して!

チェスがいなければ、わたしはここから出られない。 「あなたは意識的にわたしを受け入れて、退路を断った。あなたの気紛れに閉じこめられているの。ユーシーは本当に存在しているか、わたしがそう思えれば存在しているのかも知れないけど、わたし自身が存在…